福岡の木村専太郎クリニック院長、木村専太郎の執筆した文献などをご紹介

炎の眼科医 ~土生玄碩(1762-1848)~

シーボルト江戸参府

文政9年(1826)3月5日から4月11日まで、シーボルト一向は江戸の長崎屋に滞在した。その間、シーボルトは江戸在住の医師を集め、散瞳薬の実験を供覧し、皆を驚かせた。
玄碩はシーボルトを訪れ、いろいろと教えを乞い、自内障の手術で効力を発揮するベラドンナの液を戴いた。当時日本では、散瞳する液体は存在していなかった。ベラドンナ液がなくなったので、次に教えを乞いに行くと、シーボルトは教えてくれず、液体もくれなかったという。
それで着用していた将軍家から贈られた葵の御紋入りの紋服を贈ることで、日本で取れる「ハシリドコロ」の名前を教えてもらった。散瞳させることにより、白内障手術が容易になることを知っていた土生玄碩は、医学発展のために、敢えて国禁を犯してまでも散瞳薬の名前を知りたかったのであろう。

この「ハシリドコロ」は、ベラドンナとともにナス科の有毒植物で、ヒヨスチアミン(ラセミ体はアトロピン)やスコポラミンなどのアルカロイドを含み、瞳孔を散大させる作用がある。日本では、谷川沿いの湿地に自生しているなす科の多年草で有毒植物である。
シーボルトの参府旅行中の日記の中で京都から江戸に上る際、水谷六助と伊藤圭介が持参した宮周辺で採取した莨トウ根(ハシリドコロ)の記述があり、これを玄碩に教えたものと思われる。

話は前後するが、文政6年8月に長崎に到着したシーボルトは、「奇薬」を使うと評判であった。この「奇薬」が散瞳薬であった。そしてシーボルトの高弟であった四国阿波藩出身の眼科医・高良斎は、訳書の「眼科便用」と「眼科必読」の中で、シーボルトが玄碩に教えたことを明確に記載していたという。

シーボルト事件

文政11年(1828)9月、シーボルトが帰国する直前に、シーボルトの所持品の中に、持ち出しが禁じられていた伊能忠敬の製作した日本地図や葵の御紋の入った紋服などが発見された。
日本地図を贈った幕府天文方で書物奉行の高橋景保ほか10数名、紋服を贈った玄碩たちが捕らえられた。シーボルトは先の江戸参府から出島に帰還し、旅行中で1,000点以上の日本特有の植物標本を収集できた。
さらに、シーボルトは日本の北方植物にも興味をもち、間宮林蔵が蝦夷地で採取した押し葉標本を入手したく、彼は間宮に丁重な手紙と布地を贈った。しかし間宮は外国人との私的な贈答は国禁に触れると考え、開封せずに上司に提出した。高橋景保と問宮林蔵の間には確執があったともいわれる。間宮がシーボルトから受け取った手紙の内容が発端となり、高橋景保と多くの幕府役人が捕らえられ取調べを受け、内定が進められた。

最近の梶輝行の研究が、シーボルト博物館の『鳴滝紀要』第六号(1996年)に発表されたという。その論文「蘭船コルネリウス・ハウトマン号とシーボルト事件」によると、これまで暴風雨で座礁した船中から地図等のご禁制の品々が発見されたという説は、後日の創作であることが判明したという興味あることが載っているという。
コルネリウス・ハウトマン号は文政11年(1828)10月に出航を予定していたが、同年9月17日夜半から18日未明に西南地方を襲った台風のために座礁し、その年12月まで離礁できなかったそうである。
従来は船がかなりの被害を受けて座礁し、船の中から禁制品の地図類や三つ葉葵の紋付帷子などが見つかったことが通説であった。しかし座礁した船に対する検査もなく、そのままにされて、船の中に積み込まれていたのは船体の安定を保つためのバラスト用の銅だけだったという。
幕府もオランダ政府とシーボルトに対する外交的な配慮のために機会を待っていて、船の座礁を機会にシーボルトの捜査が開始されたという。

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